本文へスキップ

英会話・英語・英会話マスター・BBS・BBS英会話マスター

電話でのお問い合わせは0725-20-6686

〒595-0072 大阪府泉大津市松之浜町1-16-29

小説 英国留学一人旅HEADLINE

ストーリー 1

 スチワーデスに声を掛けられ、シートベルトを締めると、緊張が益した。
さあ出発である。兎も角、日本男児の名に恥じないように、しっかりと外国文化を勉学し吸収することを心に誓って、今後の日本の礎になるよう、三四郎は紋付き袴に下駄といったいでたちで、ちょんまげは兎も角、勿論ふんどしの紐まで締め直してきた。

 飛行機は長い滑走路に移動すると、一先ず停止する。と、次の瞬間”ゴー”と音を立てたかと思うと、背が後ろに引っ張られ、窓の外の景色が急速に後ろに倒れていく。
 すると、身体がグイッと傾いたかと思うと、間もなくして、瞬く間に地面のものすべてが模型のように小さくなっていった。
 それから、飛行機は右に大きく旋回すると、もう雲の掛かった青い空だけが小さな楕円形の窓を覆い尽くしていた。そして、三四郎が漸くほっとした気分になった時には、雲は雲海になって眼下に拡がっていた。

 いよいよ出発である。三四郎は逸る気持ちに不安を感じながら、心持はもう遥か彼方の異国の地を思っていた。

 英国への留学は彼がかねがね切望していたことで、やっとそれが実現することになった。三ヶ月程の滞在ではあるが、期待に胸はもう張り裂けんばかりである。

 初めての海外の一人旅は又、緊張の連続でもある。隣に座った白いターバンを巻いた褐色のインド人に、ひょいっと目が合った折、白いターバンは大きな目を一層大きくして三四郎を見た。すると、今まで見たこともない太くて毛むくじゃらな腕を伸ばし、突然熊のような手で握手を求めてきた。全身毛で覆われているようなインド人は、興味深げに紋付き袴について尋ねてくる。 極太長芋腕を持ったターバンヒグマは頻りに鼻の下の立派なナマズ髭を撫でながら、紋付き袴をじろじろと眺めては感心した。
 三四郎はそのナマズ髭に対して、”イエス、イエス”とだけ相づちを打つように繰り返し応えた。

 食事の順番が前方の座席より近づいてくる。三四郎は栗毛のスチワーデスにどう対応するべきなのか、どう振る舞っていいのか、どきどきしながら聞き耳を立て、益々近づく三四郎の順番に動揺する。全てが初めてのことで気持ちが落ち着かない。

栗毛:「fish or beef?]
 三四郎はフィシュと答えたが、何故かその栗毛は首を傾けて復唱して確認した。
栗毛:「fish?]
三四郎:「イエス、イエス。」

 しかし、その後は妙なもので、何度となく運ばれる西洋風の食事を頂くと、緊張感も次第に薄れ、そのうち居眠りも交えるようになっていった。

 何度となく眠りから覚める内に、背中もしびれ、疲れもピークになる。もう飛行機の旅もどうやら辛くなってきた。すると、そうこうしている内に漸く、英国に着くと機長のアナウンスが流れた。

 日本を飛び立つ前には、あれほど内心不安を感じていた外国が、又一方では当然夢のように憧れていた外国が、以外にも安易に突然始まってしまうことに、少々戸惑いを感じながら、巨大な鉄の塊に乗れば、誰でも思ったよりは簡単に、ひょっこり外国が始まるものだとふと妙に感心した。

 飛行機が降下するにつれ、眼下に拡がるミニチュアに見える全てのものがどんどん現実の絵模様へと移り変わる。

 ヒースロー空港は郊外に位置していることもあり、周囲には殆ど空港の建物以外見渡す限り緑に覆われていた。又、その緑も芝生を几帳面に敷き詰め整備されたように映っている。時折、米粒ほどの白いものが、緑の丘の上に編隊を組んで上下左右に飛行しているのは多分野鳥であろう。

 着陸は離陸の時ほど緊張もなく、順調に過ぎて行った。しかし、生まれて始めての異国の地とあり、さすが飛行機を出る段になって、こみ上げる不思議な感情に心持は少々感動した。
 郊外の空港からはバスでロンドン市内に入る。いざ、出陣である。

 先ずは、バスのチケットを購入するため、チケット販売窓口に向かう。目的地ケンブリッジまでの道のりは既に充分下調べをしてきた。ケンブリッジはご存じのように、キングスカレッジを初めとして歴史のある有名な大学都市として、文化に富んだ素晴らしい街である。
 空港内のバス発着所のアクセスサインは、とても分かりやすく表示していた。三四郎は一人バックを引きながら誘導サインにそって歩いた。

 市内行リムジンバスのチケット購入窓口を見つけて列に並ぶ。順番は直ぐに来た。係員は三四郎を一瞥すると、長方形の細い眼鏡レンズの上から、少々驚いた目をして覗いてきた。きっと紋付き袴が彼の興味を引いたのだろう。空港でも三四郎に向ける視線は少なからずあった。三四郎の出で立ちは、機内は勿論空港内でも三四郎以外に見ることが出来なかった。
 三四郎は戸惑い気味の係員に向かって言った。
「チケット、プリーズ」

 実は日本を発つ前に英語は少々、否大分かな、勉強は既に集中的にやっていた。外国語は元々得意ではなかったが、西欧文化を学ぶため、いざ現実に外国に向けて旅立つと決断して以来、勉強が苦にならなかった。否、苦にならないと云うよりも寧ろ必要にかられたと言った方がよいかもしれない。英書も何十冊も読破したし、文法書などは本が擦り切れるまで勉強した。遣ることは遣ったので、少なからず三四郎自身も英語に対しては多少自信を持っていた。

 係員は眼鏡の上から、上目使いに驚いた眼を見開き、とぼけた顔を傾けた。三四郎としても、澄まして言ったものの、何故か傾いたひょっとこが、一向に元に戻らないものだから、少々心配になって、一度語尾を少々上げて、切符販売窓口の係員を覗いてみた。
「チケット、プリーズ。」
 ひょっとこは益々傾いた。頬被りはしていませんが、とぼけた顔は妙に癇に障る。その後、何度か言い方を工夫して言い直してみたが、ひょっとこは妙に傾いたまま微動ともしない。それどころか今度は三四郎が頓珍漢なことを言っているような顔つきに変わり見つめていた。
 三四郎の後ろには勿論順番を待つ人達はいた。

 早くなんとかしなければいけないのは、出発待ちの市内行きのバスのことや、周りの雰囲気からも当然重々解っていたが、何とか早くこの場を収めなけらば、と思えば思うほど係員が間抜けた顔で惚け始めると、思わず”かあ!”と頭が熱くなって紅潮して益々冷静さを欠いてしまう。

 そのうちに、行列もどんどん長くなるほど、ソワソワ、ガサガサうごめきだす。そうなると、もう背中には無数の焦燥の矢が、先程とは異質の視線が突き刺すようで益々混乱する。仕舞にはわざとらしく三四郎目がけて咳払いをするものまで出てきた。

 実は係員はその傾いたひょっとこだけではなかった。窓口の奥では、数人悠然とこの行列にも関わらず、のんびりと休憩の時間なのか、タバコをふかして雑談をやっていた。
 何ということだ。日本では考えられない光景である。益々動揺が益す。日本男児こういった時こそ落ち着くのだと自らに言い聞かす。そして、兎も角冷静になって指でチケットを作ってみた。
「チケット、フォー ロンドン、ロンドン プリーズ。」
 祈る気持ちでジェスチャーで説明した。
「Oh, ticket! for London.」
 係員は今にもひっくり返りそうな顔を立てなおして、漸く二三度頷いた。その後、係員は何故か大喜びで一人納得をしてチケットを三四郎に手渡して言った。
「Nice clothes.」
 係員は焦る気配も見せず悠々と笑っていた。三四郎にはその場でやれやれ一安心と思いながらも、畜生、当然、眼鏡ひょっとこのように、その場でゆっくり安堵できる感情は持ち合わせていなかった。支払いを済ませると、恐縮してそそくさと逃げるようにバス停に急いだ。

 バスはバスストップに一台ぽつんと止まっていた。バスの座席に腰を下ろすと、間もなくして次から次へと乗客が駆け込んできた。バスはその後、、間もなくして出発した。三四郎は動き出したバスの車窓を眺めながら覚悟を決めた。
「これは手ごわい旅になるぞ。」

 バスが出発して暫くすると、窓の外には鉄の塊から見下ろした起伏にとんだ風景がずっと続いて広がった。三四郎は窓に映った自分に向かって一人呟いた。
「切符はチケットではない、ティケットである。」
 これはひょっとすると、どうも気づかないうちに相当の日本語を英語と思い込んでいるに違いがない。用心すべし。
 その後も草原の景色は続いた。

ストーリー 2

 ブロック造の建物が建ち並ぶ風景が見え始めると、パスはその内にロンドン市内へと入っていった。街にはお馴染みのあの赤い二階建てバスや黒塗りのロンドンタクシーが走っている。ここはまさにあの憧れの英国ロンドンである。左手にはあの有名なビッグベンがそびえ立っている。車窓からはいつか見たあのロンドンの写真の現実が次から次へと、現れては過ぎて行った。

 バスは市内のビクトリア駅に到着する。三四郎は彼が暫く滞在する予定の学校があるケンブリッジへの列車に乗るため、予定通り地下鉄でリバプールストリート駅へ向かうことにした。何はともあれ初めてとしては、順調な出だしであろう。

「Where is SUBWAY?」
三四郎はバスを降りると、道行く人に地下鉄は何処と尋ねた。が、何度と尋ねてみても一向にらちがあかない。一難去って又一難。どうも尋ねるたびに、空港であったような傾き加減の様々なひょっとこ集団に、またしても遭遇した。又それどころか時に、両手を上げてお手上げをするものや、最後には髪を乱した紋付き袴の三四郎の姿をみるなり、小走りに逃げ出すものまで現れた。そういえば紋付き袴に犬の散歩に出かけるように、コマ付の箱のようなバッグを引く姿は異様な雰囲気かも知れない。
 三四郎のバッグは50センチメートル角の濃い茶色の革バッグで、中央のファスナーを開けば、バッグの容積が二倍にもなる三四郎のご自慢の優れものバッグであった。

 ええい、こうなれば、一人で見つけてやる。そう決めるとロンドンの街を一人、以前にもまして右往左往しながら、髪を振り乱し、三四郎はコマ犬を連れて地下鉄を探した。

「UNDERGROUND?」
 地下鉄は何処にもなかった。しかし、その代り地下道のサインを見つけた。予定では目的地へは午後十二時までには着くことになっていたが、このままで行くと予定のケンブリッジ行きの列車に乗り遅れ、学校で先生と待ち合わせることになっている時刻までに着くのは危うくなる。

くそ、こうなると人は妙にカウントダウンの時限爆弾を巻きつけたように、大胆な行動をするものである。地下鉄は地下にあるはずである。あるに決まっている。三四郎は単純な思考回路で、地下道と書いた一方通行のサインを逆行して、階段で飛び跳ねるコマ犬も気にせずひたすら下って行った。

 すると、何と地下鉄は地下道の行きつく直ぐ先で見つかった。そして、地下鉄には地下道の表示があった。
「UNDERGROUND」
「あれ!」
 もしかして、どうも英国では地下道が地下鉄であるかもしれない。どうも三四郎が勉強してきた英語は、英語ではなく、もしかして米語だったかもしれない。
 兎も角、SUBWAYで、否UNDERGROUNDでケンブリッジ行きの列車がある、リバプールストリート駅へ向けた出発である。それにしてもUNDERGROUNDはどうもまだ、しっくりいかない。
 用心すべし、ENGLISHには英語と米語がある。

 地下鉄のシステムは日本と同じである。地下鉄は日本でも乗っていたので問題はありません。しかし、それでも地下鉄へ向かうあの英国の長い降下エスカレーターに高度恐怖症の三四郎は閉口した。

 リバプールストリート駅はいつか見た映画に出てきた駅のようで壮大であった。天井は丸く湾曲したドーム型になっていて、その高い天井の下には巨大な空間が開け、列車が何台も几帳面に並んで止まっていた。

 予定の列車には乗り遅れたしまったものの、今度は上手く駅の窓口でティケットを買った。そして、やっと安心して列車に乗り込み発車を待った。この列車には向かい合った座席ごとに、それぞれドアが一つあり、コンパートメント式で、自らが手動でドアを開閉でき、出入りが簡単になっていた。

 今か今かと出発の時を待つ長い待ち時間の後、やっと発車のベルが鳴る。漸く動き出すことになった列車を思いながら、三四郎は一人列車が動き出す方向の、駅の高い屋根越しに、それよりも高いブロック造の立ち並ぶロンドンの風景を眺めていた。

 すると、思いもよらず、発車まじかに”バタン”と音がしたかと思うと、突然三四郎の席のドアが開いて一人の女性が駆け込んできた。彼女は三四郎を一瞥すると、直ぐに向かい側の席に息を荒くして深く腰を下ろす。そして、次に間に合って安心したのか、一つ大きく息を吐いた。
 三四郎は只々あっけにとられて驚くばかりであった。と云うのも本当に突然であったことも理由の一つですが、これほどまじかに写真から飛び出してきたような金髪女性と面と向かったのは初めてであったからです。まるでフランス人形のようだ。否、イギリス人形かな、とても華麗で美しかった。

 まもなく列車は、”ガタン”と音を響かし揺れたかと思うと、ゆっくりと動き出した。彼女は動き出した列車の車窓から知人を探しているのか、外をじっと見つめている。
 列車はドームを抜けると遮るもののない光を満面に浴び速度を増していく。

 漸く列車の速度も落ち着くと、少々安堵感を感じる。やっと最終目的地ケンブリッジに向けての出発である。三四郎はやれやれと云った心持や、いよいよと思う気持ちも感じながら、車窓の外のプロック造りの立ち並ぶロンドンの街の風景を見送りながら、これから行くケンブリッジを期待や心配の入り混じった複雑な心持で思い描いた。
 そうそう目的地で待ち合わせの約束をしている学校関係者の事も少し気にはなった。が、日本から遥々一人で出てきていることは学校側も十分承知のことである。きっと心配して待っているに違いない。

 列車は順調に走った。しばらくして、前に座っている女性がバックから取り出した書物を読む合間に、時折三四郎を書物越しに覗いているのに気づいていた。彼女は金髪の長髪を時に掻きあげながら、ブルーの瞳の視線を書物に向けていた。
 三四郎としても、そろそろ車窓の外の景色にも飽きてきていたこともあって、ちょっと声を掛けようと思っていたものの、外国の女性とは一度も話した経験もなく、正確には三四郎が今は外国人であるが、今まで会ったこともないフランス人形、否イギリス人形のようで美しくて、話したく思うのは山々であるが、どうも踏ん切りと云う勇気が出ず、先程から何かきっかけがつかめずもじもじしていた。

 とその時、急に列車がアナウンスもなしにブレーキをかけ、速度を緩めて止まりかけた。運よくその時、彼女も三四郎の方を見たこともあって三四郎は軽く会釈をした。

「Why?」
 三四郎は彼女に話しかけた。
「I don't know」
 ブルーの瞳も読んでいた書物を置いて外を窺った。
「No アナウンス?」
 三四郎は車内を見まわした。
「No」
 そのうち、列車はゆっくりと駅に停車した。英国では駅に到着してもアナウンスがないのだろうか。驚いた。しかし、よくよく考えると、それでは初めて旅をする人は大変困る。注意深く駅に着くたびに標識を見て、確認しておかないと乗り越してしまう原因にもなる。
 しかし、兎も角、アナウンスがなかったことで話の切っ掛けは出来た。

「Where is your home?」
 イギリス人形が話しかけてきた。
「Japan」
 彼女は三四郎の着物を今度は書物越しではなく、直接まじまじと眺めてきた。
「Japanese clothes」
 彼女は三四郎の着ている和服にとても興味があったようだ。
「This is 紋付き袴。」
 彼女は和服についてその後も三四郎自身よりも興味深く尋ねてきた。

 彼女の名前は、ロジーナ。彼女は英国人ではなくイタリア人であった。イタリアの北部ミラノから英国に英語の勉強に来たという。
「Japanese chothes is all this, Montuki Hakama, isn't it.」
 ロジーナは尋ねた。
「ああ、さむたいむす うえあ でぃす。」
「Japanese have a long sword.」
「ろんぐ そーど。」
 彼女は腰に手を当てて、その手を伸ばしたり縮めたりした。
「Long knife.」
「おお、かたな。」

 どうも彼女には日本はまだまだ侍社会であるかのように錯覚していた。これほどメイドインジャパンが普及しているにも関われず、もしも三四郎がちょんまげでもあれば、彼女に思い込みを確信させたに違いない。
 三四郎も彼女も片言で、英語での会話は十分通じ合えるといったものでは到底なかったが、同じ境遇が幸いしたのか、会話はちぐはぐながら時間は瞬く間に過ぎて行った。

 列車は目的地ケンブリッジ駅に到着した。彼女もこのケンブリッジの学校に通うことになっている。彼女は既に駅に迎えに来ている人たちがいた。
 三四郎はロジーナに別れの挨拶をした。
「See you.」
 三四郎が思わず頭を下げて一礼をすると、ロジーナは喜びと驚きを隠しきれない。
「Oh! This is Samurai.」
 三四郎は一人感激するロジーナを見つめながら、自らもこのとき、日本人であることを妙に確認させられた。すると、次の瞬間ロジーナは突然三四郎に近づき、抱擁して両頬にキスをした。
「See you, Sanshiro.」
 ロジーナは笑顔で手を振りながら、何事もなかったように迎えの人の方向にかけて行った。三四郎は唖然と立ち尽くしていた。一瞬何が起こったのか、理解できなかった。しかし、兎も角三四郎も約束時間のこともあり、目的の学校に急ぐことにした。

ストーリー 3 へ